時空を超える「これすき」

アイマス中心に、とにかく好きなものを好きということをメインとしたブログ。 Twitter → @hatenakiniwaka

すずめの戸締り 感想 ~明日に希望がありますように~

 

※この記事には物語のネタバレが含まれます。未視聴の方の閲覧はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はじめに』

 

 新海誠監督の作品に初めて見せられたのは、誰もがそうであったように自分もまた「君の名は。」だった。

 ロマンスたっぷりのラブストーリーと、物語を根っこからひっくり返すSF的なギミック、そしてそれらをたっぷり盛り上げる音楽と映像に心惹かれた。

 ついで、「天気の子」を見にいき、「天気」を用いた秀逸な雰囲気の管理と、ある意味で許されざるような選択を良しとするラストの結論に大きく驚かされ、同時に賞賛した。

 

 

honngyoup.hatenadiary.jp

 

 

 王道のボーイミーツガールを描きつつも、それだけではないい意味でちょっと変わったフックがあり、驚きをくれる彼の作品に強く魅せられていた。

 多分その中で自分は、「新海誠は一筋縄ではいかない」、「何かこちらを大きく驚かせれ来るはずだ」という思い込みができていたのだと思う。

 だからこそ今回の「すずめの戸締り」も、きっと予告編だけでは見えないような何かとんでもない引っかけが待っているのだろうと、そんな半分疑うような気持で映画館に赴いた。そしてその予想はいい意味で裏切られることになる。

 今回の「すずめの戸締り」は……そのテーマもメッセージも、とてもシンプルな作品だった。

 

 

 

『「災害」とそのあと』

 

 今作のテーマは直球で「災害」である。表向きのコンセプトは「災害を引き起こすミミズを止める閉じ士の青年と、その青年と出会った少女のロードムービー」だけれども、その裏には「災害によって大切なものを失った後の人生」を、主人公であるすずめが見つけるという物語が隠れている。

 物語の前半でのすずめはパワフルで行動的な少女として描かれているのだが、このバックボーンがだんだんと明らかになっていくにつれ、彼女が持つ災害への恐れとどこか自分を顧みない、危なっかしいところが垣間見えていく。

 「(死ぬのは)怖くない!」というような序盤の勇ましいセリフも、彼女の背景を加味するとどこか恐ろしい響きがある。また、同居している環さんへの遠慮も、真の意味であの家が彼女の家ではないという自覚のようだ。

 とにかくすずめという少女は、この作品において不安定なのだ。

 そしてそんな風に彼女を揺るがしたのが、3.11の災害なのである。

 大切なものを失って、たまたま生き残ったすずめ。決して同時者ではない自分にとっては、あの災害のことを忘れてはいないにしろ、多少はどうしても印象というものは薄くなっていて、だからこそ彼女の存在は、一度失ったものが戻ることはないという残酷な現実を突き付けてくるのだ。

 

 

 

『彼女の明日』

 

 けれどこの作品は、それらを経てもなお明日を生きようとするすずめの姿を描いていくのだ。

 戸締りを巡る旅の中で、彼女は多くの出会いをし、また草太や環とたくさんの言葉を交わす中で、自分が手にしたものに気付いていく。「今の自分の場所」から飛び出して、その旅の中で、彼女は大切なものや帰るべき場所の存在に気付いていく。

 自分と違う人生を歩んだ人と話すことで視野が広がり、家を飛び出すことで自分にとってのあの場所の意味を理解し、隣で頑張る青年の人となりを知ることで心惹かれ、そして自分を育ててくれた人の本心を知り――。

 そうやって、彼女は居間の自分を理解する。だからこそ、「生きたい」と叫んだ草太に呼応するようにすずめもまた「生きたい」と叫ぶ。生きるだけの理由があるのだと叫ぶ。このシーンにどれだけ心が震えたことか。

 失ってしまったものがあり、そのうえでミミズの存在は今あるものでさえ簡単に失うかもしれないという恐ろしさを示している。エンドロールでまた草太が戸締りの旅をしたことからわかる様に、災害はいつだって起こりうるし、またいずれ誰かが何かを失ってしまうのだろう。

 けど、それでもすずめは過去の自分に言うのだ。明日には希望があると。

 災害の痛ましさを描き、失った後の不安定を描き、今なお隣にある恐怖を描き、それでもなお、「明日には希望がある」と伝えるすずめの姿は、きっとこの映画の意味そのものだ。

 何とも王道で、ありふれていて、陳腐で、ひねりのない。

 それでいて、なんと、真っすぐなメッセージなのだろう。

 

 

 

『「おかえり」』

 

 本作は本当にシンプルな作品である。シナリオ展開はすずめが草太と出会い、戸締りをしながら旅をして、やがて帰ってくるというもの。長編ではあるものの、アクションシーンや旅のシーンなど勢いのまま楽しめる部分の多く、娯楽性も非常に高い。

 そして前述したように、その話の持つテーマ性もいたってシンプルだ。

 それでも自分は、すずめが帰ってこれる場所があり、大切な人がいて、希望をもって今を生きている。

 その結末が、何よりも美しくて、大好きだ。

 陳腐と笑う人はいるのかもしれない。浅いと嘲る人もいるのかもしれない。

 けれど、自分は。これほどの魂の込められた魅力ある作品の力をもって強く宣言された希望を、尊びたいとそう思う。

 すずめ、おかえりなさい。これからの君の人生に、もっと大きな希望がありますように。

 

 

 

@2022「すずめの戸締まり」製作委員会