総合評価:かなり面白い
本作は2020年に放映されたライトノベル原作のアニメです。
内容としては、魔法の存在する世界で主人公である魔女イレイナが旅をし、その中で起こった出来事を描く短編連作となっています。
エピソード一つの一つの温度感がかなり違うのが特徴的で、人情物としてほろりと感動する話もあれば、まるで悲劇のような救いようのない話もあり、かと思えば次の回はドタバタ騒ぎのコメディ回だったり。各話ごとのテンションの差は最初戸惑いもありましたが、和数を積み重ねていくとなるほどこのバラエティ豊かな話がこの作品の味なのか、と思えてきました。
いい人もいれば悪い人もいる。素敵な一日があれば最悪の一日もある。気の赴くままに旅をしているからこそ、良いも悪いも含めて色々な経験をするのが旅であるということなのだと感じたのです。必ずしも毎回良い区切りを迎えないからこそ、賑やかでおかしい回がより楽しめるのだと思います。いわば、イレイナという魔女の人生をありのまま描いた作品なのです。
また、作品の語り部であるイレイナという少女も、作品の書かせない魅力だといえます。
見た目こそ純粋華憐な少女ですが、その性格は中々曲者。悪人というほどひどくはなく優しい一面もありますが、善人というにはちょっとがめつかったり。人のために頑張るときもあれば、時には自分の利益や興味、プライドのために動いたりと、程よくいい人で程よく悪い人なのが、良しも悪しも起こるこの作品にいい味わいをくれます。
全くの善人でないからこそ、コメディ回でとる行動にはやれやれとこちら側を笑わせてくれますし、全くの悪人でないからこそ、自分の目の前で起こった出来事に心を痛めたりすることもあります。
魔女という情人より優れた力を持つ存在なので、時に出来事においてヒーロー的立ち回りをすることもありますが、決して彼女は万能の主人公ではありません。人並みに良いところも悪いところも、強いところも弱いところもある、普通の少女です。だからこそ、一つ一つの出来事にイレイナは心が揺れるのです。うまくいって笑顔になることもあれば、目の前で起こっていることに何もできず逃げかえることもある。そんなヒーローではない彼女が語り部だからこそ、このアニメの一つ一つの物語はとても印象深いのだと思います。
彼女の存在は、物語上で起こる様々なことを見てる自分たちに伝えるためにとても重要だといえるでしょう。
他にも魅力的なサブキャラクターも多いですが、やはり根本的には優しさもつらさもある世界と、そんな世界を旅するイレイナ、という2つの要素がこの作品の根幹の魅力だと思います。
次に単発のお話で印象深かったものについていくつか。
・『瓶詰めの幸せ』
このアニメ、ただものじゃないなと思ったエピソード。たった10分ちょっとの話とは思えないほどまとまっていて、それでいて後味の悪さも抜群。苦みの濃縮度はこのアニメでも随一。
このエピソードはイレイナの表情の描き方が秀逸で、目の前で起こる理不尽に憤りを感じながらも、何もできない無力さがにじみ出ているのがすごく印象的でした。
ラストの逃げ帰るようなイレイナの姿は忘れられない。
・『ぶどう踏みの少女』
ギャグ回ではこれが一番好き。イレイナのほど酔上手がった性格の面白さがギュッと詰まった回だと思う。大暴走して勝手にどっか行くイレイナが面白すぎた。
・『遡る嘆き』
放送終了後世間をにぎわせた衝撃回。全話含めてもダントツで演出が秀逸だったんだけど、それゆえに見終わった後のインパクトもすさまじい。というか自分が見始めたときの最新話がこれだったので見終わった後その日は何もできなかった。
エステルの話自体も大概なんだけど、それを見ていることしかできなかったイレイナの感情の崩れ方も心に来る。彼女は英雄ではないからこそ、旅路でこんな風に悲しい出来事に出会うことがあるのでしょうね。
・『ありとあらゆるありふれた灰の魔女の物語』
最終回。イレイナに取っての「旅」という物は何なのか、それに対する結論のような回。『遡る嘆き』の後にイレイナが立ち上がるみたいな描写って存在しなくて、まあそんなもんなのかなって思ってたんだけど、この回で完璧にフォローされて感動した記憶があります。
やさぐれてしまった短髪イレイナさんが一番かわいいかもなと思ったのは内緒。
通してみてみれば、いい意味で多種多様なお話が楽しめ、最後もきっちりまとまっている良質なファンタジーアニメだったと思いました。
作画も安定していて、OP、EDはどちらも世界観にマッチした素敵な楽曲でしたしね。
最後の引き的に続編を作る気満々見たいですので、定期的に続編の作られるシリーズになることを期待します。
それでは。
©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会