時空を超える「これすき」

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映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」ネタバレあり感想 〜友よ 今君が見上げる空は〜

 

 

【点数】

8.0/10.0点

 

【短評】

リッチな映像体験と眩しい友情が爽快な誰にでもおすすめできる良作。

 

【詳細な感想】

 

 映像最高! 友情最高! うおおおおおお自分の未来は自分で選ぶエンドおおおおおお!!!!!

 

 ……というような作品でした。異種族の交流を通して育まれていく友情と、途方もない困難を乗り越えていくドラマが面白く熱く描かれていたと思います。噛めば噛むほど味は出るけど、そもそもが映像だけでも楽しめる良い作品でした。

 実は原作を上巻だけ読んだというかなり中途半端な状態での環境になったのですが、終わってみるとこれくらいの知識で見れたのが丁度良かったように思えます。スピード感のある展開に激しく揺さぶられながらも、しっかりお話の方向性を理解しながら見ることができました。

 

 この映画において何が一番印象に残るのかと聞かれて、グレースとロッキーの友情ドラマであると言わない人はいないと思います。全く違う種族の二人がはるかな宇宙の果てで出会い、友情を育みながら最後にはすべての困難を乗り越えていく。それこそがこの「プロジェクト・ヘイル・メアリー」という映画の魅力であり、ドラマの根幹です。

 原作の「科学という共通言語で理解を深めていく」という過程が薄くなっていたのはちょっと残念ではあったものの、コミカルに触れ合いながらもお互いの背負った運命の大きさを理解し合って共感していく、という流れはとても丁寧でした。互いが抱える孤独を理解する過程が特に良かったですね。

 互いの個性と歩み寄りをしっかりやってくれたからこそ、ロッキーが命懸けでグレースを助けたり、グレースが目覚めたロッキーに優しい言葉を駆けたりするシーン一つ一つにとても感動しました。バリア越しの法要のシーンとかちょっと泣きそうになってしまいましたね。

 ラストも永遠の友情を信じて別れるだけでなく、グレースが自らの意思でロッキーを助けに行って新しい未来をつかみ取るというさわやかな終わりなのも後味爽やかで最高でした。もっとビターなエンドもあるかなと思っていたので。

 

 本音を言うと地球サイドの話ももうちょっと見たかったなと思うのですが、現状でもかなり長めの癪になっている以上仕方ないのかなと思います。エヴァの地球を守るための選択とか短い場面でもかなり味わい深かったのですが、とはいえやりすぎても主題がぶれそうですしね。

 この辺は映画にするうえで圧縮されてしかるべきだったのかなと思います。

 

 グレースとロッキーの話としてまとまっている一方、原作小説を読んだときに感じた科学関連の面白さとミステリーのような導入という小説としての個性は薄まっていたなと思います。媒体が違うからなと思いつつ、あのコミカルに科学を教えてくれるグレースの語りとドキドキしながら少しずつ理解を広げていく過程がプロヘメの小説としての強みだと思っていたので、メインストーリーの描写に振り切ったのはちょっと残念にも思えます。王道なんだけど王道ゆえにシンプルすぎる感じ。

 まあそのメインストーリーがすごく面白いので問題はないんですけどね。

 

 映像はもう文句なしでしょう。突っ込むこともなければケチをつける必要性も感じません。宇宙の広大さみたいなSFの王道なところはもちろん、ぴょんぴょん動き回るロッキーの愛らしさと彼の乗る宇宙船のオーバーテクノロジー感というこの作品ならではの要素がすごく完成度が高かったので良かったです。頭の中の想像を超えていくような感動がありました。

 今回はIMAXで見ましたが、こういう作品こそ気合入れていいスクリーンで見るべきだなと感じました。

 

【最後に】

 

 見終わった後の爽快感がとにかく気分よくて、いい体験をしたなと胸を張って言える作品になっていたと思います。

 小説もちゃんと読み切りたいですね。ではまた。

 

 

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映画「パリに咲くエトワール」ネタバレあり感想 〜夢を見つめて駆け抜けた少女たち〜

 

 

 

【点数】

9.0/10.0点

 

【短評】

高いエンタメ性と心に響くお話を両立させた名作。

 

【詳細な感想】

 

 素晴らしい作品でした。見応えあるアニメーションとハイテンポな物語で飽きさせない作りになっている隙のない作品だったと思います。それでいてテーマがとても前向きで、エネルギッシュな強い推進力を持っている作品だったと思います。
 見やすいがきちんとお話の重みもある、満足度の高い作品でした。

 

 とりあえず何をおいてもアニメーションのクオリティの高さが突き抜けていました。どんな何気ないシーンであっても人物の描写の躍動感が凄くて、皆生き生きとした動いていたと感じます。全編にわたって作画枚数がなんか凄そうなんですよね。誰も彼もヌルヌル動いてます。
 フジコのエネルギッシュさ、千鶴の可愛らしさみたいは主役どころはもちろん、ジャンヌさんみたいなサブキャラですら異様に動きます。表情豊かな人物たちの掛け合いはもう見ているだけで面白いなって思えるような領域に達していたような気すらします。
 そして作画の凄さは日常だけでなく動きの大きなシーンにも表れています。薙刀関連のシーンはアクションとしての見応えが凄く、それでいて千鶴のルーツとしてしっかりと描かれています。後半ではかつての敵と共闘するという激アツアクションに繋がったりするのが意味不明すぎて本当におもろでした。
 また、ラストのバレエシーンは劇場の荘厳な迫力と現実ではあり得ないカメラワークによる幻想的な雰囲気に圧倒されてしまいました。派手な動きではないシーンですが、一人一人が舞台という大きな絵のパーツとして表現してることが伝わってきました。ゆったりだからこそあの空気感を楽しめたのかなと思います。

 

 ストーリーもよかったです。というかここが一番いいですね。

 本作はシナリオの波自体は結構多く、イベント自体の進行はたんたんとしていて結構テンポよく進んでいきます。しかし駆け足感はなく、一個の一個の過程はしっかり重みを以て描かれていました。前述したようにアクションシーンも多いためシーンごとの緩急もしっかりありましたしね。

 

 本作の主人公はフジコですが、話自体は千鶴に関することを中心に進んでいきました。そしてこの構成こそが本作の物語に深みを与えているのかなと感じす。同じパリで夢を追いかける2人ですが、それぞれの違いが「追いかけること」のむずかしさや壁を多面的に見せていました。

 

 千鶴のドラマはまさに王道の成長ドラマです。幼いころに抱いた憧れに周囲の支えをもって飛び込んでいき、自らが目指した場所へたどり着くという王道の流れ。新しい自分への挑戦が軸のストーリーでした。面白いのが千鶴のルーツである薙刀がプラスにもマイナスにもなるという点です。過去の全てを否定するでもなく、かといってすべてがプラスになるわけでもないという塩梅が、千鶴が過去からの連続の中で生きているという風に感じさせてくれていたと思います。千鶴自身も過去の自分を悲観しすぎることなく、あくまで問題解決自体はロジカルに行っていたのが良かったですね。

 メインストーリーという観点においては、まさに千鶴が主役でした。慣れない環境、知らない世界にあこがれを持って挑み、周囲の人と試行錯誤を重ねながら純粋な気持ちで挑んでいく。トライアンドエラーの先のラストにバレリーナとして舞台に立つ彼女を見た時には相当グッときましたね。

 

 そして彼女と対照的に語られるのが主人公のフジコです。千鶴とパリに夢を追いかけにいったという過程は同じながら、彼女は逆に「生活を維持するために夢を追いかけることができなくなっていく」という生々しい悩みと向き合うキャラとなっていました。

 フジコの魅力として行動的なところと前向きなところがあります。叔父についていって自らパリに赴くところから始まり、頼るアテがなくなっても現地の人と協力しながら働いて生きていき、中盤からは千鶴のバレエへの挑戦を支えていくことになります。そんな前向きな勢いで作品を序盤から引っ張っていたのですが、千鶴が着実に夢へのステージを上がっていくなかで、彼女の役割はだんだんとその千鶴を支えるサブへと変わっていきます。千鶴目線では最高のパートナーではあるものの、フジコの目線に立とうとした時にうまく見えなくなる。彼女が絵に向き合うパートがみるみる減っていくんです。

 そんな流れだったので、正直見てる途中で「これ主人公千鶴だな」なんて思っていたりしてました。だからこそ、後半のルスランへの心象の吐露のシーンはかなりのインパクトがありましたね。あの瞬間にフジコのキャラクターとしての奥行きが一気に広がった感じがありました。

 夢を追いかけて飛び出していったはずなのに、生活の大変さとより優れた人たちへの劣等感で前に踏み出せなくなるというのはとても共感できる感情です。あの時代の状況がフジコたちにとってやりにくいことはそこまでの流れで強調されていましたし、自分の絵への絶望に対しても「かつての名画家がまだ存命」というとびきり強い事実で説得力を与えてきたのもこの作品の強みを活かしていました。

 おそらくこの時のフジコは、日本の人たちからのプレッシャーから「認められる成果を上げなくちゃいけない」ととらわれていたのではないでしょうか。パリに、ここにいる意味をきちんと示さなければならないと。だからこそ、偉人とも言うべき名画家と比べて心がズシンと沈んでしまう。

 自分もあんなふうになれると信じ切れないから、怖い。そんな彼女の心を想像して胸が苦しくなります。

 

 そしてこの時のフジコの気持ちが響くからこそ、私はそこからフジコが自分の絵を取り戻していく過程が美しく思えました。

 終盤、フジコはルスランの励ましを受けて自分等の向き合い方について見つめ直し、そして千鶴のバレエを見てもう一度筆を執ります。

 ルスランが「表現したいものを表現する」ことの意味を説いてくれからこそ、そして千鶴が夢を叶える力強さと美しさを見せてくれたからこそ、フジコはまた絵を描きたいと思えるわけです。そしてその結果を得られたのは、何より彼女がこれまで積み上げてきた他者との関わりがあってこそです。

 遠回りでも、苦しくても、それでもがむしゃらに進んでいった先に一つの答えが待っていた。それは千鶴のように力強く進み続けられるわけではなくても、信じた先にたどり着ける場所があると教えてくれているように感じました。

 

 千鶴とフジコ。二人がたどった道のりは違うけれども、それぞれがそれぞれへの夢への近づき方を見せてくれました。

 明るくテンポのよいストーリーの裏に、確かに感じる人の歩みの重さ。それこそが私がこの作品に感じた良さなのだと感じました。

 

 以下雑記。

 

 世界大戦時期の話ということもあって戦争の話もきちんと触れられていました。それを軸に持ってくることはありませんでしたが、時代背景を描くことでフジコたちの選択の重みを描くという意味で必要なものだったと思います。彼らのこれからの未来が順風満帆でないことは明確ですが、エンドロールのその先を彼女たちがしっかりと生き抜いたのだと信じずにいられません。

 

 本作はサブキャラも魅力的でした。特にルスランは3人目の主人公とも呼ぶべき素敵な人だったと思います。表現者として千鶴に共感しつつも、フジコの人柄を愛し支えようとしたところが好きです。素直なのもいいですね。素直ゆえに初対面の時みたいな悪い口調が出ちゃうのも素敵。

 

 アクションシーンは普通にかっこよかったんですけど、あの棒使いはなんですか????

 

【最後に】

 

 名作でした。現状今年一番の映画だと思います。

 ラフに映像を楽しんでもいい、テーマを軸に描写を一つ一つ噛み締めてもいい、魅力的なサブキャラの動向を楽しんでもいい。

 どこをとっても無駄がなく、そしてハイクオリティ。最後には晴れやかな気持ちで終われる。

 最高の作品でした。今年始めて2回目に行っちゃおうかななんて考えたりしています。

 楽しかったです。本当にありがとうございました。

 

映画「ルックバック」ネタバレあり感想 ~創作パワアアアアアーーー!!!!!~

 

 

ルックバック

 

【点数】

8.5/10.0点

 

【短評】

創作の持つ大きな力を自分の目線で考えたくなる作品。

 

【詳細な感想】

 すごい作品でした。たった1時間の物語でありながらも、頭の中をぶん殴られるようなインパクトを感じました。「創作」にどれほどの力があるのかということをこの作品自身のクオリティをもって知らしめるような、そんな作品だったなと思います。

 物語として短い中にあれやこれやギミックを詰め込んでるので描いてほしいところを盛大に吹っ飛ばすところも多く、一個のストーリーとしてみるとちょっと物足りないところも多いとは思います。ただ、それ以上に感じ入るものがある作品だなと感じました。

 

 とにかくまずはあの藤本タツキ先生の癖の強い絵がそのまま動いているようなアニメーションに感動しました。ふっと瞬間美しく見える表情とカ、心がぐちゃぐちゃになったときのぼろぼろさとか、感情が溢れ出した時の心幕を取ってしまったようなオーバーな動きとか。そういうチェンソーマンとかで出てくる派手な人間表現がそのまんま動いている感じでした。

 特に京本に初めて褒められた藤野が雨の中うっきうきで飛び回りながら帰宅するシーンのアニメーションが大好きです。自分の中でだけ溢れる感情があまりにも大きすぎて表に出まくってしまう、そんなはじけた描写としてみててとっても愉快でした。

 というか藤野のキャラがいいんですよね。褒められると調子に乗るしすぐに偉ぶっちゃうしそのくせうまく本音は言えないし。でも一方で京本へのいろんな感情だけで漫画を描いて持ち込んで連載までたどり着いてしまうバイタリティもあって、人間的な強さも弱さも愛嬌になる素敵な人でした。

 

 と、そんな風に素敵な青春漫画創作ストーリーとして感想を終えてしまってもいいのですが、本作はそれだけで終わるような作品でもないんですよね。

 後半の京本が襲われてからもう一度藤野が筆を持つまでの不思議な展開は、本作が「創作の力」という部分に大きく踏み込んでいったところになっています。

 思うに、本作は「創作」が持つ力の大きさと可能性に向き合い続けていた作品だったのではないかと。

 

 藤野が絵の勉強を始めたのも絵を諦めたのも京本の絵を見たから。京本が部屋を飛び出したのは藤野の絵に気づいたから。背景画を学ぶために美術大に京本が行きたくなったのも漫画を描いたからこそ。

 本作では彼女たちの創作のオリジンとか思想とかが語られるわけではありませんが、その代わりに創作によって人生が変わる瞬間が描かれ続けています。そしてその瞬間とはポジティブな推進力だけではなく、京本が襲われるきっかけになった身勝手な嫉妬のようなマイナスなものも含まれています。

 「良くも悪くも人生において大きな変化をもたらすもの」

 これがこの映画における創作の描かれ方となっていました。

 

 だからこそ、終盤の藤野と京本それぞれの漫画が時代も理も超えて相手に届いた場面には大きな願いが込められているような気がするのです。

 創作には大きな力がある。それならば普通ありえないことも起こしてしまうのではないか。凶刃に伏した京本を救う奇跡も、失意の藤野に気づきを与える力も持っているのではないか。そんなメタい観点までもってきて、本作は「創作の力」を描こうとしているのではないか。私はそんな風に感じました。

 

 創作の枠組みで、創作に対するこの上ない愛情宣言をする。それこそがこのルックバックという映画の味だというならば、私はそれを喜んで受け入れたいです。

 

【最後に】

 

 ということで「ルックバック」でした。

 作品から作品より奥の創作者の心を想像したくなるのは自分の中では珍しくて、感想を書きながらどうにも変な気持ちになりました。

 創作で創作を描くという構図の作品だからこそ、この作品の創作に向き合った人のことを考えてしまったのかもしれません。

 そう思うと面白い経験でした。こういう作品もよかったと思います。

映画「スタンド・バイ・ミー」ネタバレあり感想 〜この世界の歩き方を知った日〜

 

 

 

 

 

【点数】

9.0/10.0

 

【短評】

人生との向き合い方を学んでいく少年たちの姿が目に焼き付く良作

 

【詳細な感想】

 

 友人の勧めでみた本作。初上映から40年近くたっている作品で、「初代ポケモンでテレビで流れている作品である」ってこと以外ほとんど何も知らないままでの視聴でしたが……いやあ、グッときました。「色あせない名作」というのはこういう作品を指して言うのだろうなと思えるいい作品でした。

 

 本作は「4人の少年の1泊2日の冒険」という要素だけ見ると楽し気な作品にも見えるのですが、作品を取り巻く雰囲気は全体を通してみるとどこか息苦しいものになっています。

 主役の子供たちは皆家庭だったり環境だったり自分自身にだったりにコンプレックスがあって、どこか皆の輪の中に居場所が持てないはみ出し者の集まりになっています。それぞれタイプが違うように見える凸凹個性の彼らを結ぶのが疎外感ということですね。子供というのは自分だけでは生きられず、自分だけで自分の在り方を決められない存在です。彼らは自分より年上の人たちから与えられるレッテルを自分ではがせないがゆえに、その重みに苦しみ続けています。

 そしてこの映画は、そんな現状と向き合い自分の歩み方を見つけるまでの過程を描いていく作品となっていきます。

 

 やんちゃな少年たちの冒険は微笑ましいし楽しい物なのですが、時々ふっとやってくる「現実」を突きつける描写が冷や水をぶっかけてきて、熱狂がその都度冷めてしまいます。何からも自由になったようで、実はただ目を背けているだけだということを突きつけられるようで毎回苦しい気持ちになりました。

 ただ、それでも彼らは旅路の中で自分の気持ちに向き合って少しずつ自分たちの歩むべき道を見つけていきます。

 象徴的なのはやはりゴーディとクリスの夜の会話シーンでしょう。お互い光る才能を持ちつつも、環境によって将来に希望を見出せない2人。そんな2人がお互いの心に寄り添いあいながら相手を認め合うことで少しだけ気持ちを持ち直します。そしてその支え合いが、ラストの不良たちに拳銃を向けるという結末につながっていきます。

 不良グループという理不尽な存在に自らの武器で立ち向かおうとする姿勢は、まさに人生を切り開くために大きな一歩です。死体発見者として名乗りを挙げなかったのも、誰かの尺度でヒーローになろうとしなかった姿勢とみることができます。

 そして、そんな大きな決断ができたのは、間違いなく「友達がいたから」なのです。一人では押しつぶされるしかなかった彼らが疎外感という共通項でたまたま集まって、認め合うことで苦境を乗り越えようと奮起する。彼らはそうやって小さな勇気を得られたのです。

 この友情と決断から来る少しだけ爽やかな結末が、消えない夏の匂いを私の心に残していきました。

 

 そして未来ではゴーディはクリスが死亡したという記事を目にしていました。一見それはとても悲しいことのように思えますが、それだけではないようにも感じます。

 クリスは弁護士として成功しており、かつ死亡した原因も正義感から喧嘩を仲裁しようとしたことです。彼は間違いなく自らの意思で人生を選択し遠くまで歩いてきていました。

 この結末が示すのは、むしろ世界の公平さなのではないでしょうか。ゴーディの兄がそうだったように、どれだけ正しく生き立派に進んでいても不幸は平等に訪れるもの。個に問題があるから不幸なのではなく、たまたまその個が不幸なだけ。

 幸福も不幸も誰しもに平等に訪れる。だからこそ、我々は人生を自分の意思で切り開かねばならないのでしょうか?

 不幸の底に落ちた時、新しい道を切り開けるのはきっと自分の意思だけなのだと。そう信じ歩み出した彼らの姿は、どうにも忘れられそうにありません。

 

 映像に関しても古臭しと頃はほとんど感じませんでした。流石に全体の雰囲気には年代を感じたものの、イキイキとした少年たちの冒険は時代を超えても通じる晴れやかさがあったと思います。前述したように終始陰鬱なわけではなく、少年たちがはじけている場面もあったので非常にテンポよく楽しめました。

 

【最後に】

 

 とにかくシナリオがずしんと響いた映画でした。自分がいま人生をちゃんと選べているのかとか、そんなことを考えてしまいましたね。

 自分の人生に食い込んでくる映画は素晴らしい映画なのだと思います。見られてよかったです。

 

映画「木挽町のあだ討ち」ネタバレあり感想 〜物語の結末は俺たちが決める!〜

 



 

【点数】

7.5/10.0点

 

【短評】

時代劇でありながら圧倒的見やすさと普遍的なテーマ性に感心した良作。

 

【詳細な感想】

 

 映画館で観た予告編の映像の綺麗さに惹かれて鑑賞しました。時代劇ということもあって鑑賞の際にそれなりにハードルがあるかなぁと思ってはいたものの、実際観てみるとかなり現代で見る人にフレンドリーで観やすい作品だったと思います。主題になっている「あだ討ち」も、復讐の意味なんてあるのか? みたいな形で飲み込みやすく作られていましたしね。

 ライトがゆえにちょっと物足りない部分はあるものの、役者の方たちの熱演もあって爽快なドラマになっていたと思います。

 

 シナリオでいうと前半が特に面白かったですね。江戸で起きた「木挽町の仇討ち」なる有名な出来事を語り部である加瀬総一郎が追いかけていくというのがメインのあらすじなんですが、ここの入りが新鮮で良かったです。総一郎はいわゆる探偵ポジションであり雰囲気的には刑事コロンボとか古畑任三郎みたいな「飄々としてるけど実は切れ者」タイプの人なんですが、そういうタイプの人が江戸であれこれ聞き込みしてくっていう構図があんまり見たことなくて面白かったです。つかみどころのない雰囲気の演技も良くて魅力的です。

 最初にドラマティックな仇討ちの映像を見せたあと、そこの周辺情報を拾っていくことで違和感を浮かび上がらせていく過程はワクワクしました。歴史物でミステリーをするという導入は良かったですね。

 ただ本作は善意によって色々なものが隠されている話なので、総一郎は聞き役であり後半に探偵のような立ち振る舞いをするわけめはのかったのはちょっと肩透かしに感じました。違和感の解きほぐし方が悪いわけではないのですが、探偵役の魅力があった分ただ淡々と「実は……」と明かしていくだけの流れになるのはちょっと勿体無く感じました。

 

 後半は劇団がいかにして偽りの「あだ討ち」を演じていったのかの種明かし編になります。ここは正直に言えば「もう一声」と思ってしまいましたね。

 全体的に事実ベースで進んでいくのでちょっと淡々としてるなと感じましたし、終盤の鼻が折れるというトラブルもなんだかシュールで取ってつけたような感じがありました。

 ただ全体の流れというか、描こうとした題材そのものはすごく良かったと思います。前半で勇ましくかっこよく描いた仇討ちを、出来過ぎなくらいのかっこよさを「芝居」として作り出す過程を描いたうえで「意地と誇りのために仇を討つことに何の意味があるのか?」と問いかける。復讐というものが仕組みで担保されていた時代のなかでその仕組みそのものに問いを立てるのは面白いテーマです。「復讐の連鎖」という題材だと考えれば普遍的でなんなら現代的であるとすら言えるかもしれません。

 そしてそんな仇討ちに対して劇団員たちはそういった社会の基盤から逸れてより合っている人たちなので、仇討ちを作り出すことにカタルシスがあるんですよね。今の社会に生きづらさを感じていた人たちだからこそ、その仕組みに自分たちが身に着けてきたことで抗う姿が熱いというか。

 惜しむらくは彼らのバックボーンは前半のコロンボパートで語られてはいるものの、それらの背景を踏まえたうえで菊之助の境遇にそれぞれが共感していく過程があまりなかったのが残念でした。なんとなく想像はつくとは言え、きちんと明確に描いてほしかったと思います。

 

 総じて、前半の探偵ものっぽさも後半の仇討ち創作も楽しかったり興味深い題材になっていたりして良かったと思うのですが、どっちにも物足りなさがあってうまく溶け合っていたわけではないのかなと思いました。それぞれのパートを切り分ければ見応えがあるだけに、まとまりがやや悪いのは惜しいところです。

 とはいえ、前半の勇ましい仇討ちのシーンが背景が明らかになるにつれてガラリと印象を変えていく流れはとても面白かったと思います。構成はもう少しという感じですがシナリオ自体は良かったです。

 

 演技に関しては文句なしだと思います。決して描写が多くなくても人物に好感を持ちやすいのは演者の方々の力でしょう。軽快なやりとりのなかにその人の背景や人間性を滲ませてくれて、ドラマの奥行きを感じさせてくれました。シナリオが物足りなく感じても物語に説得力を感じたのは役者の力だと思います。

 シナリオの感想でも述べましたが、やはり総一郎の雰囲気がよかったですね。間の抜けた浪人のようでいて、細かいことから情報を引き出してくるやり手という雰囲気が良かった。人懐っこい前半の立ち振る舞いの後に侍としての凛々しい姿が見えてびっくりしちゃいました。あとはやっぱり作兵衛ですかね。前半の悪漢がまさかあんなに忠義に熱い男が作り出した姿だなんてびっくりです。修羅の顔を真似するように生首のモデルになる場面が超好きでした。

 そうそう、恋役者の肩が多い中で菊之助の方は青臭い感じが満々だったのですが、それが逆に箱入りで育ってきた善人という雰囲気になっていてよかったと思います。キャスティングはとてもいいのでしょうね。

 

【最後に】

 ということで木挽町のあだ討ちでした。

 濃密なミステリーや人間ドラマ! という点においてはあと一歩物足りないところはあったものの、歴史ものであることを活かしたいいとっかかりのシナリオになっていて終わってみればかなり好感触な映画だったなと思います。

 難しいことを考えなくても楽しい作品で、結構満足はしました。ありがとうございました。