現在開催中のシャニマスのアルストロメリアイベント、「薄桃色にこんがらがって」。
Twitter上で多くの絶賛の声を聴いていたが、全くもってその評判に偽りなしの丁寧な名イベントコミュであったと思う。
シナリオ自体の構成ももちろんよかったのだが、特に優れていたのは「演出」だった。
というのも、ソシャゲのシナリオ描写はテキストベースであることが多いイメージが自分の中であって、立ち絵と背景だけで説明しきれないことは地の文やセリフで表現することが基本だと思っている。
それは、媒体に対して最適化された表現方法の一つだと思っているのだが、今回の「薄桃色」は、かなり一般的なビジュアルゲームのような表現が多かったように思う。
まず1つ思ったのは「間」の多さ。
これは今回に限った話じゃないが、シャニマスのコミュはかなり間を使ったテンポの管理や雰囲気づくりを大切にしている印象がある。
今回で言うと、例えばオープニングでのレッスン後のシーン。賑やかに去っていく大崎姉妹の足音に対し、桑山は言葉こそ発しないものの、足どりは重い。直前の「アプリコット」という雑誌への反応も含め、どこか、不穏の種が生まれたような気配が生じる。
このような、場面に貯めや余韻の間を作ることによって、「語らずともうかがえる部分」を多く作るのは、シャニマスコミュの特徴的な演出の一つだ。
これは、場面を印象的に立てるのに大きく作用しているうえに、間に想像を膨らませるため、読み手の没入感も生み出す。
「薄桃色」では、アルストロメリア3人の互いを思うが故の心の揺らぎを、間を用いることで表していた。
2つ目に優れていたと思うことは「音」。それもSEが優れていると思う。
シャニマス、とにかくSEが印象的で、前述したようにキャラの心象表現に「足音」を使ったりするなど、細かいところだがシーン1つ1つをより印象を強める。
個人的に「薄桃色」のSEで特に好きなのは3話。桑山と大崎甘奈の部屋でのシーン。BGMがない場面で、彼女たちの生活音が響く。これが、無音よりもさらに場面の静かさを際立たせていて、それが2人の心の描写をよりクリアにしている。
そして、もう一つよかったと思うのが「背景」。
今回はとにかく背景差分が多いコミュで、それがとても有効に作用している。
気分が沈み視線が落ちる場面で足元目線の背景があったり、アルストロメリアの思い出を思い出す場面でこれまでのイベコミュなどの背景が出てきたり。
また回想シーンでは、言った人物を出したり出さなかったりすることで、セリフを言った時の表情ごと思い出させるのか、あるいはセリフの声音だけを集中して思い出させるのか異なるので、単なる回想にもとらえ方に違いが出る。
他にも細かい状況理解も視覚的にかなりしやすくなっており、ビジュアルの情報でテンポを崩さないように雰囲気を作っている。かなり配慮の行き届いた演出だ。
以上のように、細かい部分の演出に、シナリオへの感情移入を深める工夫がされていて、気が付くとどっぷりその物語にはまってしまうと思うのだ。
脚本自体の巧みさもあるが、それを見せるビジュアルノベルとしての演出の丁寧さ。それが、シャニマスというゲームのコミュの魅力である。
「薄桃色にこんがらがって」は、それを再確認させてくれるコミュだったと思う。
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