【前書き】
当たり前のことではありますが、世の中には自分の知らないことが溢れています。
大抵の物事は自分の人生に関わることはなく終わっていき、人はきっと世界の1割も理解することなく人生を終えていくことでしょう。しかしそれは未知故の無能から絶望する理由になるわけではなく、むしろ自分が一歩踏み出すだけで知らないことをたくさん知ることができるという希望があるということです。
だからこそ人は知らないものを知りに行くほうがいいですし、知らないものに触れたときにできるだけ素直に受け止めてみるべきだと思うのです。
ということで、今回は自分と正反対な映画を通して、自分の世界が広がる瞬間のすばらしさを感じていきたいと思います。
今回感想を述べるのは、友人から薦められた日本最大ヒットフランス映画、「最強のふたり」です。
【点数】
8.5/10点
【短評】
圧倒的な映像表現と音楽、それに乗せられた下品で爽やかな友情が眩しい良作。
【良いところ】
・映像と音楽の抜群の美しさ
本作の最大の見どころはなんといってもこれでしょう。
全編通して本作はセリフで物語を語るより、音楽と映像で感じさせるような場面が多いのですが、このシーンがどちらかといえばシンプルなストーリーラインを大きく盛り上げています。
10年以上前の映画と言われないと気づかないくらい映像は綺麗ですし、BGMは切ないシーンはより切なく、賑やかなシーンはより楽しそうに盛り上げてくれます。
登場人物たちの感情の揺れ動きをパワーあふれる映像表現で壮大に盛り上げることで、シンプルなシナリオをより深く、より確実にこちらの心に刺さるようにしています。
特にお気に入りのシーンはアース・ウインド&ファイアーの曲に乗せてパーティ会場で皆を巻き込み踊るシーン。
上品な空気がドリスの影響で一気にクラブのように愉快な空間に変わる瞬間の気持ちよさは随一。フィリップの住んでる世界の見え方を変えてしまったドリスのパワーを感じるシーンでした。
・コミカルでぶっ飛んだ友情の楽しさ
今回のストーリーの軸はドリスとフィリップの友情関係となりますが、ここも非常に良い。
ドリスはスラム出身ということもあり言動は無茶苦茶で誰かにブチギレられてもおかしくないような言葉を連発します。しかしそれ故の素直さがありフィリップに対しても他の人と変わらないノリで接していく。これが、周囲に障害者としての扱われ方に辟易していたフィリップにいい感じにハマっていくんですよね。
仲を深めていくと、フィリップの障害者として見られることへの強さだったり、実は意外とぶっ飛んでる趣味方面だったりと彼の厳格な資産家というだけではない一面が見えてきます。そうやって打ち解けたドリスと二人でブラックジョークを言いながら、ゲラゲラと楽しそうに笑うシーンはどこにでもいるような馬鹿な男たちそのもので、二人の間にある違いなんて何一つ感じさせません。
このお互いがお互いを受け入れ合うユニークな友情は、今作の持つ雰囲気の魅力にダイレクトに繋がる素晴らしい要素でした。
・愉快で愛せるキャラクターたち
前述した通りフィリップは厳格なだけでなく意外と下世話な部分も持ち合わせています。ドリスと意外と馬鹿話で盛り上がるのはなんだか可愛らしい。気が強そうに見えて自身の身体への繊細な感覚を持ち、それ故に苦悩することもある。それでもドリスに背中を押されながら少しずつ変わっていく姿はとても魅力的。
ドリスはドリスで粗雑に見えて任されたことになんだかんだ向き合うし他者にもきちんと手を伸ばす懐の深いところがあります。直情的な性格も素直さからくるものと考えれば影響でしょう。アウトラインを飛び越えまくるブラックジョークも、もはや後半になれば味です。
サブキャラクターも一挙一動がユニークな人が多くて、終始賑やかな作風に一役買ってくれる名優たちばかりでした。
・言葉以上に雄弁な演技
演技もめちゃくちゃ引き込まれました。特にフィリップの首から下が動けないというキャラクター故いろいろと難しいことも多いと思うのですが、感情の揺れ動きが表情一つから伝わってきて素晴らしい。瞳を見るだけで、百の言葉を尽くすより雄弁に感情を語ってくれます。
逆に動きまくるドリスは見ているだけで愉快。でもふとした瞬間にのぞかせる表所が彼のやさしさだった李をじんわりとにじませていて、途中からどこかカッコよくすら思える。
名優がいてこそ名キャラクターあり、と強く感じさせてくれます。
・始まりを予感させるさわやかなクライマックス
そしてそんな2人の物語はドリスが弟のためにフィリップのもとから離れることでクライマックスへ。
フィリップの元での生活の影響を受け、品が身についたりウィットにとんだ話ができるようになったドリスは、新しい場所で人生を前向きに進めていきます。
けれどフィリップは一歩前に戻ってしまい、また触れられざる障害を持つ者になってしますが……そんなフィリップをドリスは再び連れ出して、そして彼に文通相手に無理やり出合わせる。
このシーン、ただ粋でかっこいいというだけではなくドリスが「フィリップが次に進むために必要なこと」だと考えての行動なんじゃないかと思います。
二人で無邪気に過ごした時間が終わり、それぞれの人生へと道は分かれていく。けれどお互いがお互いに残したものが、次なる人生の糧となる。2人で最強で最高だった2人が、一人でも最高の人生へ――というさわやかな旅立ちは、穏やかなエンディングテーマとともに希望にあふれたさわやかな気持ちにさせてくれるベストシーンだと思います。
あの瞬間の言いようのない晴れやかな気分が、この映画を見てよかったと思える何よりの根拠ですね。
【うーんなところ】
・ラスト
雰囲気が最高で構築されているので文句らしい文句はないのですが、しいて言うのであればラストの元ネタの2人の映像を差し込むのはちょっとだけ没入を削ぐ行為だと思いました。
原作へのリスペクト的なことだとは思うんですけどね。
【総評】
言ってしまうと本作はかなりシンプルな構成の話で、シナリオ的に大きな起伏となる場面はあんまりありません。構成要素も2人の友情にかなり寄っていて、決して目新しいわけではない。
けれど、目を惹く映像と目が覚めるような音楽、名優たちの演技が合わさるとそのシンプルなお話を何重にも奥深く楽しめるのだということを学びました。
まさにこれぞ映画の力、というパワーを感じる名作、楽しませていただきました。ありがとうございました。
ほんと、人生って素敵ですね。