時空を超える「これすき」

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映画「パリに咲くエトワール」ネタバレあり感想 〜夢を見つめて駆け抜けた少女たち〜

 

 

 

【点数】

9.0/10.0点

 

【短評】

高いエンタメ性と心に響くお話を両立させた名作。

 

【詳細な感想】

 

 素晴らしい作品でした。見応えあるアニメーションとハイテンポな物語で飽きさせない作りになっている隙のない作品だったと思います。それでいてテーマがとても前向きで、エネルギッシュな強い推進力を持っている作品だったと思います。
 見やすいがきちんとお話の重みもある、満足度の高い作品でした。

 

 とりあえず何をおいてもアニメーションのクオリティの高さが突き抜けていました。どんな何気ないシーンであっても人物の描写の躍動感が凄くて、皆生き生きとした動いていたと感じます。全編にわたって作画枚数がなんか凄そうなんですよね。誰も彼もヌルヌル動いてます。
 フジコのエネルギッシュさ、千鶴の可愛らしさみたいは主役どころはもちろん、ジャンヌさんみたいなサブキャラですら異様に動きます。表情豊かな人物たちの掛け合いはもう見ているだけで面白いなって思えるような領域に達していたような気すらします。
 そして作画の凄さは日常だけでなく動きの大きなシーンにも表れています。薙刀関連のシーンはアクションとしての見応えが凄く、それでいて千鶴のルーツとしてしっかりと描かれています。後半ではかつての敵と共闘するという激アツアクションに繋がったりするのが意味不明すぎて本当におもろでした。
 また、ラストのバレエシーンは劇場の荘厳な迫力と現実ではあり得ないカメラワークによる幻想的な雰囲気に圧倒されてしまいました。派手な動きではないシーンですが、一人一人が舞台という大きな絵のパーツとして表現してることが伝わってきました。ゆったりだからこそあの空気感を楽しめたのかなと思います。

 

 ストーリーもよかったです。というかここが一番いいですね。

 本作はシナリオの波自体は結構多く、イベント自体の進行はたんたんとしていて結構テンポよく進んでいきます。しかし駆け足感はなく、一個の一個の過程はしっかり重みを以て描かれていました。前述したようにアクションシーンも多いためシーンごとの緩急もしっかりありましたしね。

 

 本作の主人公はフジコですが、話自体は千鶴に関することを中心に進んでいきました。そしてこの構成こそが本作の物語に深みを与えているのかなと感じす。同じパリで夢を追いかける2人ですが、それぞれの違いが「追いかけること」のむずかしさや壁を多面的に見せていました。

 

 千鶴のドラマはまさに王道の成長ドラマです。幼いころに抱いた憧れに周囲の支えをもって飛び込んでいき、自らが目指した場所へたどり着くという王道の流れ。新しい自分への挑戦が軸のストーリーでした。面白いのが千鶴のルーツである薙刀がプラスにもマイナスにもなるという点です。過去の全てを否定するでもなく、かといってすべてがプラスになるわけでもないという塩梅が、千鶴が過去からの連続の中で生きているという風に感じさせてくれていたと思います。千鶴自身も過去の自分を悲観しすぎることなく、あくまで問題解決自体はロジカルに行っていたのが良かったですね。

 メインストーリーという観点においては、まさに千鶴が主役でした。慣れない環境、知らない世界にあこがれを持って挑み、周囲の人と試行錯誤を重ねながら純粋な気持ちで挑んでいく。トライアンドエラーの先のラストにバレリーナとして舞台に立つ彼女を見た時には相当グッときましたね。

 

 そして彼女と対照的に語られるのが主人公のフジコです。千鶴とパリに夢を追いかけにいったという過程は同じながら、彼女は逆に「生活を維持するために夢を追いかけることができなくなっていく」という生々しい悩みと向き合うキャラとなっていました。

 フジコの魅力として行動的なところと前向きなところがあります。叔父についていって自らパリに赴くところから始まり、頼るアテがなくなっても現地の人と協力しながら働いて生きていき、中盤からは千鶴のバレエへの挑戦を支えていくことになります。そんな前向きな勢いで作品を序盤から引っ張っていたのですが、千鶴が着実に夢へのステージを上がっていくなかで、彼女の役割はだんだんとその千鶴を支えるサブへと変わっていきます。千鶴目線では最高のパートナーではあるものの、フジコの目線に立とうとした時にうまく見えなくなる。彼女が絵に向き合うパートがみるみる減っていくんです。

 そんな流れだったので、正直見てる途中で「これ主人公千鶴だな」なんて思っていたりしてました。だからこそ、後半のルスランへの心象の吐露のシーンはかなりのインパクトがありましたね。あの瞬間にフジコのキャラクターとしての奥行きが一気に広がった感じがありました。

 夢を追いかけて飛び出していったはずなのに、生活の大変さとより優れた人たちへの劣等感で前に踏み出せなくなるというのはとても共感できる感情です。あの時代の状況がフジコたちにとってやりにくいことはそこまでの流れで強調されていましたし、自分の絵への絶望に対しても「かつての名画家がまだ存命」というとびきり強い事実で説得力を与えてきたのもこの作品の強みを活かしていました。

 おそらくこの時のフジコは、日本の人たちからのプレッシャーから「認められる成果を上げなくちゃいけない」ととらわれていたのではないでしょうか。パリに、ここにいる意味をきちんと示さなければならないと。だからこそ、偉人とも言うべき名画家と比べて心がズシンと沈んでしまう。

 自分もあんなふうになれると信じ切れないから、怖い。そんな彼女の心を想像して胸が苦しくなります。

 

 そしてこの時のフジコの気持ちが響くからこそ、私はそこからフジコが自分の絵を取り戻していく過程が美しく思えました。

 終盤、フジコはルスランの励ましを受けて自分等の向き合い方について見つめ直し、そして千鶴のバレエを見てもう一度筆を執ります。

 ルスランが「表現したいものを表現する」ことの意味を説いてくれからこそ、そして千鶴が夢を叶える力強さと美しさを見せてくれたからこそ、フジコはまた絵を描きたいと思えるわけです。そしてその結果を得られたのは、何より彼女がこれまで積み上げてきた他者との関わりがあってこそです。

 遠回りでも、苦しくても、それでもがむしゃらに進んでいった先に一つの答えが待っていた。それは千鶴のように力強く進み続けられるわけではなくても、信じた先にたどり着ける場所があると教えてくれているように感じました。

 

 千鶴とフジコ。二人がたどった道のりは違うけれども、それぞれがそれぞれへの夢への近づき方を見せてくれました。

 明るくテンポのよいストーリーの裏に、確かに感じる人の歩みの重さ。それこそが私がこの作品に感じた良さなのだと感じました。

 

 以下雑記。

 

 世界大戦時期の話ということもあって戦争の話もきちんと触れられていました。それを軸に持ってくることはありませんでしたが、時代背景を描くことでフジコたちの選択の重みを描くという意味で必要なものだったと思います。彼らのこれからの未来が順風満帆でないことは明確ですが、エンドロールのその先を彼女たちがしっかりと生き抜いたのだと信じずにいられません。

 

 本作はサブキャラも魅力的でした。特にルスランは3人目の主人公とも呼ぶべき素敵な人だったと思います。表現者として千鶴に共感しつつも、フジコの人柄を愛し支えようとしたところが好きです。素直なのもいいですね。素直ゆえに初対面の時みたいな悪い口調が出ちゃうのも素敵。

 

 アクションシーンは普通にかっこよかったんですけど、あの棒使いはなんですか????

 

【最後に】

 

 名作でした。現状今年一番の映画だと思います。

 ラフに映像を楽しんでもいい、テーマを軸に描写を一つ一つ噛み締めてもいい、魅力的なサブキャラの動向を楽しんでもいい。

 どこをとっても無駄がなく、そしてハイクオリティ。最後には晴れやかな気持ちで終われる。

 最高の作品でした。今年始めて2回目に行っちゃおうかななんて考えたりしています。

 楽しかったです。本当にありがとうございました。